離婚後に住宅ローンが残る家に妻が住むは危険?住み続けるリスクを解説!
更新日 2025-12-16
「子どもの転校を避けるために、このまま今の家に住み続けたい」
「住宅ローンはあなたが払ってくれれば、それを養育費代わりにするからと言われた」
離婚後も、元妻が家に住み続けるケースは少なくありません。
しかし、そこには思わぬリスクが潜んでいます。住宅ローンが夫名義のまま残っているのに夫が住んでいない場合は、金融機関との契約違反になる可能性が高く、危険な状態です。
最悪の場合、家を競売にかけられ、守りたかったはずの家族の生活を奪ってしまう結果になりかねません。
この記事では、離婚後の家に妻が住み続けるための5つの選択肢と、夫名義のままで住み続ける際のリスクをわかりやすく解説します。
離婚後も夫名義の家に妻が住むのは原則NG
住宅ローン契約には「本人居住」が原則として明記されています。つまり、銀行は「夫(債務者)本人が住むための家」だからこそ、住宅ローンで融資をしているのです。
離婚によって名義人である夫が家を出ていき、他人(元配偶者)となった妻だけが住んでいる家は、銀行の視点では「マイホーム」ではありません。夫が所有し、他人に貸している「投資用物件」や「別荘」と同じ扱いになります。
したがって、夫がローンを払い続け、妻だけが住み続けるという行為は「資金使途違反」とみなされます。これが、原則NGとされる最大の理由です。
住宅ローン返済中の家に妻が住み続ける5つの選択肢
離婚後も奥様とお子様が今の家に住み続けるためには、大きく分けて以下の5つの選択肢が考えられます。
選択肢1:離婚した夫が住宅ローンを返済し続け、無償で妻が住む
夫は自分が住んでいない家のローン(月々の返済+固定資産税+管理費・修繕積立金)を払いながら、自身の生活拠点の家賃も負担しなければなりません。
金融機関の審査基準では、年収に占める返済額の割合である返済比率が重視されます。既存の住宅ローンがある状態では、もし夫が将来、「自分のための新しい家を買いたい」と思っても、新たな住宅ローンの審査に通りにくくなるでしょう。
離婚後も住宅ローンを返済し続けることは夫にとって、最もリスクが高く、経済的破綻を招きやすい選択肢です。
選択肢2:離婚した夫に家賃を支払い、妻が住む
夫の返済負担がないように妻が家に住み続けるかぎり、家賃としてローン相当額を夫に支払う方法です。
ただし、妻の収入が不安定になり、家賃が入らなくても、夫は銀行へのローン返済を止められません。その結果、夫が肩代わりするケースが多く見られます。
また、夫は妻から家賃を受け取って「賃貸経営」を行っていることになり、不動産所得の確定申告が必要になります。所得税や住民税が増額される可能性もあり、注意が必要です。
選択肢3:妻が住宅ローンを組み、借り換えで夫の残債を完済する
家の名義を妻に移し、ローンも妻名義で借り換える方法です。夫は住宅ローンの債務から完全に解放されるため、離婚後のトラブルがない解決策と言えます。
妻が正社員で十分な年収があれば住宅ローンを組めるでしょう。しかし、パートや契約社員、あるいは専業主婦の場合、年収要件や勤続年数の不足により銀行の融資審査に通らないケースがありえます。
この場合、妻は親族から資金援助を受けて頭金を用意し、借入額を大幅に減らすなどの工夫が必要です。
選択肢4:住宅ローンの債務者を妻に名義変更する
現在の住宅ローンの債務者を、夫から妻へ変更する「免責的債務引受(めんせきてきさいむひきうけ)」の方法です。
しかし、これは新規の借り換え以上に銀行側が認めないケースが多くあります。銀行からすれば、現在の住宅ローンは「夫」の信用力で審査した結果、融資しています。
その住宅ローンを別の人物に変更するには、妻に夫と同等以上の年収や勤続年数、信用情報などの属性が必要です。
離婚を理由として、銀行が返済能力の低い方への名義変更を認めることは、リスク管理の面からも現実的に難しいでしょう。
選択肢5:自宅を売却し、買主とリース契約して住み続ける
「リースバック」という選択肢です。投資家や不動産会社などの第三者に家を買い取ってもらい、売却代金で住宅ローンを返済します。売却後、買主と賃貸借契約を結び、家賃を払って住み続ける仕組みです。
家の名義が第三者に移るため、夫がローンを返済する義務や固定資産税の負担がなくなります。
ただし、売却価格よりもローン残債が多い「オーバーローン」の状態では、通常売却ができません。この場合、金融機関の合意を得て実施できる「任意売却」と「リースバック」の併用が必要になります。
住宅ローンが離婚した夫名義のままで妻が家に住む4つのリスク
夫名義の住宅に、離婚後も妻が住み続けることには、法的・経済的リスクが潜んでいます。ここでは、具体的なリスクについて見ていきましょう。
銀行に無断で別居すると契約違反になり一括返済を求められる
住宅ローンは債務者本人の居住が融資条件であるため、名義人である夫が家を出ていると資金使途違反とみなされ、分割払いの権利(期限の利益)を失います。
期限の利益を喪失すると、残り全額を一括で即時返済するよう求められます。払えなければ保証会社による代位弁済から競売手続きへ進んでいくでしょう。
なお、銀行が別の場所に住んでいることを把握するケースは、郵便物の返送や年末調整の書類などがきっかけです。
夫が住宅ローンを滞納したままにすると競売になり強制退去になる
夫のさまざまな事情から住宅ローンの支払いが滞る可能性があります。具体的には以下のケースです。
- 病気や怪我による休職
- 会社の業績悪化によるリストラ
- 新しい生活での出費増加
住宅ローンの滞納が数ヶ月続くと、抵当権の実行により自宅の競売を申し立てられます。競売により落札金額が納付された時点で家の所有権は新しい持ち主へ移り、住んでいた妻や子どもは、強制退去を求められます。
競売について流れやリスクを詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
関連記事:競売とは?住宅ローン滞納からの流れやリスク、対処法をわかりやすく解説
名義人である夫が勝手に家を売却してしまう可能性がある
家の所有権が夫の単独名義であれば、法的には夫の判断で自宅の売却活動が可能です。実際に居住中の家を売るのは困難ですが、夫婦仲が悪化した場合、夫が「もうローンは払えない」と強硬手段に出るトラブルも少なくありません。
妻側の視点から見れば「いつ『出ていってくれ』と言われるかわからない」という不安定な生活になってしまうでしょう。
夫の再婚や死亡時の相続により権利関係が複雑化する
将来的に夫が再婚したり、亡くなったりした場合、家の権利関係が複雑になるリスクがあります。
大きな問題は「相続」です。もし元夫が再婚し、その後亡くなった場合、家の所有権(相続権)を持つのは「再婚相手」や「再婚後の子ども」となります。離婚した元妻は他人となるため、相続権は一切ありません。
相続により新しい所有者となった「再婚相手」や「再婚後の子ども」が、以下のように主張する可能性があります。
- 「自分たちが住みたい」
- 「売りたい」
もし、新しい所有者から退去や売却を迫られた場合、元妻や子どもが住む権利を主張するのは難しく、最悪の場合は住む場所を追われてしまいかねません。
なお、離婚時に口頭で「ずっと住んでいい」と言われていたとしても安心はできません。口約束では持ち主が変わると効力が弱くなり、夫が亡くなった時点で効力が保証されないケースがほとんどです。
参考:民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)
離婚後のトラブルを防ぐため事前に取り組むべきポイント
離婚後の住まいに関するトラブルは、事前の備えと情報共有である程度防ぐことが可能です。
ここでは、トラブルに備えるためのポイントを解説します。
現在の家の価値とローン残高を確認する
あなたの家は「資産(売れば現金が残る)」なのか「負債(売っても借金が残る)」なのかを判断するために「家の査定額」と「ローン残高」を比較します。
| 状態 | 査定額とローン残高の関係 | 売却時の状況 |
|---|---|---|
| アンダーローン | 査定額 > ローン残高 | 売却でローン完済手元に現金が残る(財産分与の原資となる) |
| オーバーローン | 査定額 < ローン残高 | 売却しても借金が残るため、差額を現金で用意する金融機関と交渉して任意売却 |
不動産会社に査定を依頼し、自分の立ち位置を明確にしましょう
離婚後の住宅ローンについて合意した内容は公正証書に残す
話し合いで決まった内容は、口約束や普通のメモではなく、必ず「離婚協議書」として書面に残し、公証役場で「公正証書」にしてください。
「いつまで妻が住むのか」や「住宅ローンは誰が払うのか」、「滞納があった場合の対応」などを公文書化することで、言った言わないのトラブルを防げます。
ただし、公正証書はあくまで夫婦間の取り決めであり、銀行に対する返済義務には対抗できません。
妻が連帯保証人になっている場合は免除を交渉する
住宅ローン契約時に、妻が「連帯保証人」や「連帯債務者」になっている場合、離婚をしても連帯保証人は免除されません。
夫がローンを滞納した場合、銀行は連帯保証人である妻(元妻)に返済を請求します。妻が払えなければ、夫と同様に妻の給与が差し押さえられたり、妻自身も自己破産に追い込まれたりするリスクが生じるでしょう。
これを避けるには、借り換えや売却によってローンを完済する以外、保証人の免除は困難な交渉となります。
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どうしても条件が整わない場合の解決策
妻がローンを組めず、夫も二重生活の負担に耐えられないといった場合、以下の現実的な解決策を取る勇気も必要です。
- 無理に住み続けず、売却して現金を分け合う
- ローン返済が厳しい場合は任意売却を検討する
それぞれの内容を見ていきましょう。
無理に住み続けず、売却して現金を分け合う
もし自宅がアンダーローン(資産価値 >ローン 残債)であれば、家を売却し、諸経費やローン残債を引いた残りの利益を夫婦で折半して財産分与することをお勧めします。
家を清算し、お互いが手にした現金で、賃貸住宅から新生活をスタートさせることで、経済的にも健全な再出発ができるでしょう。夫も固定資産税や将来的な修繕費の心配から解放されます。
ローン返済が厳しい場合は任意売却を検討する
売却しても住宅ローンを完済できないオーバーローン状態では、最も有効な手段が「任意売却」です。 任意売却とはオーバーローン状態の住宅ローンでも、すべての債権者から合意を得て抵当権を解除してもらい、家を売却する方法です。
主なメリットは、3つあります。
- 競売を回避して、高く売れる
- 引越し費用を相談できる
- リースバックにより賃貸で住み続けられる。
競売では得られないメリットを享受できるため、魅力的な手段です。
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離婚と住宅ローンに関するよくある質問
離婚と住宅ローンに関してよく寄せられる3つの質問にお答えします。
夫が再婚した場合、家に住み続けることは難しくなりますか?
夫が再婚した場合、家に住み続けることは難しくなる可能性が高まります。
夫の新しい配偶者(再婚相手)が前妻が住む家のローンを払うことに不満を持つのは一般的です。「前の家を売ってほしい」という圧力が強まり、元妻への退去要求やトラブルに発展するケースは多くあります。
銀行に離婚を隠して住み続けると、バレるのでしょうか?
銀行は定期的に利用状況の調査を行っているため、隠し通すのは現実的ではありません。
銀行からの重要書類が「転送不要」郵便で届かず返送された時点で、引っ越しにより居住実態がないと疑われます。また、住宅ローン控除の適用関係で税務署と銀行のデータ照合が行われる際にも発覚するケースもあります。
離婚後、返済を続けていた元夫が体調不良で返済が困難になり妻が住んでいた家を任意売却した事例(当協会のご相談者様)
tKさんは、離婚時に慰謝料代わりとして自宅を元妻とお子様に残し、自身が住宅ローンを支払い続けていました。返済は順調でしたが、体調を崩して退職を余儀なくされ、今後の支払い継続が困難に。
当協会へご相談いただき、元妻へ現状を丁寧に説明したうえで売却に合意いただきました。お引越しの協力も得られたため空室での販売が可能となり、早期に購入希望者が見つかり任意売却が成立しました。現在は法的な手続きも含め、前向きに生活再建を進めています。
まとめ:住宅ローン問題は先送りせず早めにご相談を
離婚に伴う住宅ローン問題は、感情的な対立と複雑な権利関係が絡み合い、当事者だけで解決するのは困難になりがちです。しかし、放置すればするほど状況は悪化し、最悪なケースである競売になる可能性があります。
自分たちだけではどうにもならないと感じたときこそ、専門家に相談するタイミングです。
一般社団法人 全国任意売却協会では、住宅ローン問題に精通した専門スタッフが、あなたの状況に寄り添いながら最適な解決策をご提案します。競売という最悪の結末を迎える前に、まずは一度お話を聞かせてください。
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